骨格筋と肝臓におけるインスリン抵抗性とβ細胞機能不全との関係

2023年6月2日

筋肉のインスリン抵抗性は脂肪肝が進行する速度を決定する

筋肉におけるインスリン抵抗性は、カロリー過多と共に脂肪肝の発生を促進する。


一旦確立されると、血糖値を維持するために必要とされるインスリン分泌の増加は、肝脂肪沈着をさらに増加させる。


循環し局所的に沈着したトリアシルグリセロールから誘導された、増加した脂肪酸のβ細胞への曝露は、グルコース媒介インスリン分泌を抑制する。


2型糖尿病の病因の本質的な時間順序は明らかである。


筋肉インスリン抵抗性は、脂肪肝が進行する速度を決定し、肝臓および膵島における異所性脂肪沈着は、肝インスリン抵抗性およびベータ細胞機能不全の関連する動的欠損の根底にある。


これらの欠損は、低エネルギー供給条件下(カロリー制限)で、初期糖尿病において、そしてより確立された疾患において価値ある程度まで、劇的な逆転(つまり、寛解)が可能である。

【参考記事:】

Pathogenesis of type 2 diabetes: tracing the reverse route from cure to cause


上記は、欧州糖尿病学会の学会誌に掲載された論文です。


カロリー過多というのは、脂肪肝の直接的な原因ですが、それを形成する速度、肝臓脂肪が貯まり易いかどうかというのは、筋肉のインスリン抵抗性が関係しています。


つまり、筋肉の質と量の変化によって、脂肪肝が形成される速度が変わるということです。


筋肉の質の変化、例えば、TNF-α等のサイトカインや遊離脂肪酸が体内で増えたり、骨格筋に異所性脂肪が沈着等、何らかの直接的な原因で骨格筋のインスリン感受性を障害する場合、あるいは運動不足そのものがGLUT4の量を低減させたり、筋肉の量の変化、すなわち筋肉の減少自体もGLUT4の減少や筋グリコーゲン貯蔵量の低下を招きます。


インスリン抵抗性とは、一定量のインスリンの効果が低下している状態のことですから、骨格筋が減少すれば、相対的にインスリン抵抗性は上がることになります。


脂肪肝は肝臓のインスリン抵抗性を増大させる

骨格筋のインスリン抵抗性が上がり出すと筋肉が糖を吸収しにくくなり、糖が余り出し、余った糖の対処のため、インスリン分泌が増えます。


余った糖は、肝臓において脂肪の合成に使われ、ますます脂肪が増えることになります。


そもそも、骨格筋のインスリン抵抗性というのは、ほとんどすべてと言って良いぐらい運動不足が関係していますから、この時身体は、エネルギー需要の少ない状態にあります。


エネルギー需要が少ない時というのは、エネルギーの産生(ミトコンドリアのTCA回路での代謝)も抑制されます。


TCA回路の代謝が抑制されると、クエン酸が細胞内に蓄積し、クエン酸はミトコンドリア膜を出てアセチル-CoAに戻されます。


アセチル-CoAというのは、糖質・脂質・タンパク質(アミノ酸)を分解してエネルギーを得る場合の代謝中間体で、TCA回路で酸化されエネルギー(ATP)が産生されます。


ところがエネルギー需要が少ない時(TCA回路の代謝が抑制される時)は、アセチル-CoAが余り出します。
アセチル-CoAは、マロニル-CoA経路で、活性化されたアセチル-CoAカルボキシラーゼにより、マロニル-CoAとなり、最終的に脂肪酸(パルミチン酸等)に合成され、ますます体内に脂肪が増加します。


【参考記事:】

Effects of Identical Weight Loss on Body Composition and Features of Insulin Resistance in Obese Women With High and Low Liver Fat Content


上記は、米国糖尿病学会の学会誌に掲載された論文で、「肝臓脂肪含有率の高い肥満女性における体重減少とインスリン抵抗性の影響」を調べたものです。


論文によれば、肝臓脂肪は皮下脂肪量よりも、食事中の脂肪の量に関連していると、あります。


つまり、脂肪肝というのは、高カロリー、高脂肪食、運動不足という三位一体のものだった訳です。
と言いますか、普通に生活習慣病です。


そして、一旦脂肪肝が確立すると、ますます肝臓での脂肪合成は亢進し、ますます肝臓脂肪は増え、増えた脂肪により肝臓でのインスリン抵抗性が上がり、肝臓でのインスリン抵抗性が高まるとますます肝臓での脂肪合成が増え・・・と、無間地獄のようになって行きます。


増加した脂肪酸はすい臓のβ細胞を障害する

高カロリー、高脂肪食、運動不足により形成された脂肪肝は、それ自体が肝臓でのインスリン抵抗性を高め、ますます肝臓での脂肪合成が増え、身体中は脂肪漬けになり、各臓器は脂肪に晒されることになります。


ほどなく、すい臓にも脂肪酸は流入し、すい臓において内臓脂肪を形成し出し、β細胞は脂肪酸に晒されます。
β細胞が高脂肪環境に晒されると、β細胞の機能不全は進行して行き、β細胞の死滅が進んで行くことになります。


こうして、β細胞は徐々に委縮して行くことになり、結果としてインスリン分泌は減って行きます。


そして、ついにはインスリン抵抗性とインスリン分泌の拮抗点が崩れた時(インスリン分泌の低下により血糖の対処ができなくなった時)、病院で「糖尿病」と診断されることになります。


ここで、最初に紹介した欧州糖尿病学会の論文に戻りましょう。


論文の結論では、


2型糖尿病の病因の本質的な時間順序は明らかである。


筋肉インスリン抵抗性は、脂肪肝が進行する速度を決定し、肝臓および膵島における異所性脂肪沈着は、肝臓インスリン抵抗性およびβ細胞機能不全の関連する動的欠損の根底にある。


これらの欠損は、低エネルギー供給条件下(カロリー制限)で、初期の糖尿病において、劇的な逆転(寛解)が可能である。

と述べられています。


これは簡単に言えば、


  1. 筋肉インスリン抵抗性 → 脂肪肝が進行
  2. 肝臓および膵島における異所性脂肪沈着(内臓脂肪)
  3. 肝臓および膵島の内臓脂肪は、肝臓インスリン抵抗性およびβ細胞機能不全の原因
  4. 上記は低エネルギー供給条件下(カロリー制限)で、寛解が可能

ということです。




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