前回の記事では、筋肉のインスリン抵抗性が脂肪肝の進行する速度を決定し、脂肪肝の形成は肝臓のインスリン抵抗性を招き、肝臓のインスリン抵抗性が更なる脂肪の増加を誘発することによりすい臓が高脂肪環境に晒され、すい臓が高脂肪環境に晒されることにより、β細胞機能不全及びβ細胞のアポトーシス(細胞死)を惹起する、という説明をしました。
これらの詳しくは、欧州糖尿病学会の学会誌である Diabetologia (February 2018, Volume 61)に掲載されています。
【参考記事:】
Translating aetiological insight into sustainable management of type 2 diabetes
Pathogenesis of type 2 diabetes: tracing the reverse route from cure to cause
ツインサイクル仮説とは何か?
上記記事では、肝臓とすい臓の内臓脂肪が増加し、互いに関連し合いながら糖尿病を発症・憎悪していく過程をツインサイクル仮説と呼び説明しています。
(ツインサイクル仮説自体は、2008年に発表されています。)
毎日消費エネルギー以上のカロリーを慢性的に摂取していると、代謝エネルギーを脂肪として蓄えるために、必要量を超えた炭水化物は肝臓で脂肪に変換されなければなりません。
このプロセスは内因性インスリンの影響を受けやすいため、ある程度のインスリン抵抗性を持つ人(血中インスリンレベルが高い人)は、他の人よりも肝臓脂肪が蓄積しやすい傾向があります。
皮下脂肪組織の貯蔵量が限界に達すると、新たに合成された脂肪が過剰な食事脂肪とともに肝臓に蓄積します。
そこで肝臓によるグルコース産生のインスリン抑制が阻害され、高インスリン血症とグルコース産生の増加という悪循環が確立されます。
肝臓内の脂肪が多過ぎると、VLDL-トリアシルグリセロールの形で脂肪が増加します。
皮下脂肪貯蔵能力が枯渇すると(つまり、個人の脂肪閾値を超えると)、すべての組織への脂肪の流入が増加し、膵島も脂肪を熱心に取り込みます。
食後の高血糖は、インスリン分泌の増加と長期化を引き起こし、新たな脂質生成がさらに刺激されます。
したがって、この2番目の悪循環は、新規脂質生成と膵臓への脂肪流入をさらに増加させます。
長年にわたって、過剰な膵臓脂肪は機能の喪失とβ細胞の脱分化を引き起こします。
最終的に、膵島に対する脂肪酸とグルコースの阻害効果がトリガーレベルに達し、臨床的な糖尿病が比較的突然発症します。
元々このツインサイクルでの糖代謝異常というのは、出発点が慢性的なカロリー過多です。
そこで研究者らは、この悪循環が負のエネルギーバランスを引き起こすこと(超低カロリー食によるダイエット)によって元に戻る可能性があると予測しました。
このツインサイクル仮説の実証を行ったのが、下記論文で、欧州糖尿病学会の学会誌・Diabetologia(October 2011, Volume 54)に掲載されました。
この研究は、11人(男性9人、女性2人、49.5±2.5歳、罹病期間4年未満)の2型糖尿病患者に1日600kcalの超低カロリー食を8週間続け、調べたものです。
(46.4%の炭水化物、32.5%のタンパク質および20.1%の脂肪;ビタミン、ミネラルおよび微量元素)
結果は、開始後1週間で肝インスリン感受性の正常化をもたらし、その後肝臓脂肪レベルが正常値になると、肝臓からの中性脂肪の放出が低下しました。
その結果、上昇したすい臓の脂肪含量が低下し、正常な第1相インスリン分泌が生じ、8週間後には完全に糖代謝は正常になりました。
論文では、
この研究は、2型糖尿病の根底にあるβ細胞不全とインスリン抵抗性という双子の欠陥が、急性の負のエネルギーバランス(超低カロリー食)だけで元に戻ることを実証しています。
今回のデータは、総すい臓脂肪の減少がβ細胞機能の回復と関連しているという明確な証拠を提供します。
低エネルギー摂取の最初の7日間では、空腹時血糖および肝インスリン感受性は正常に低下し、肝内脂質は30%減少しました。
食事のエネルギー制限の8週間にわたり、β細胞機能は正常に向かって増加し、膵臓脂肪は減少しました。
(中略)
β細胞の慢性的な飽和脂肪酸曝露はグルコースに対する急性インスリン応答を阻害し、脂肪酸の除去はこの応答の回復を可能にします。
と、述べられています。
この結果は、インスリン分泌不全とは何か?で紹介した「β細胞の死滅を阻害すれば、膵島新生が損なわれていないので、β細胞量の回復につながる」という米国糖尿病学会の論文とも矛盾しません。