インスリンによる糖の取り込み

2023年5月28日

前回の記事で述べました「インスリンの主な働き」の中で、「骨格筋による糖(グルコース)の取り込み」というものがあります。
骨格筋というのは、血糖の7割~8割以上を取り込む臓器なので、骨格筋が糖を取り込んでくれないことには、高血糖は何ともなりません。


骨格筋が糖を取り込む段取りというのは、簡単に説明しますと、


まず、我々が食事をします。
食事をすると、消化・吸収された糖は血液によって各臓器に運ばれます。
すい臓のβ細胞が糖を検知すると、インスリンが分泌されます。
ここから、身体は同化モードに突入して行きます。


β細胞から分泌されたインスリンは、血流に乗って、各臓器に運ばれます。
各臓器に運ばれたインスリンは、前回の記事「インスリンの主な働き」の様に各臓器に働きかけます。


骨格筋の細胞膜表面には、インスリン受容体というレセプターがあります。
このレセプターにインスリンが結合すると、シグナル伝達を開始します。
要するに、電源をオンにするようなイメージです。


インスリン・シグナル系の電源がオンにされると、シグナル伝達が開始され、最終的に細胞内に沈んでいたGLUT4という糖輸送体(グルコース・トランスポーター)が、細胞膜に移動して来ます。
この細胞膜に移動してきたGLUT4が糖を取り込みます。


ちなみに、インスリン・シグナル伝達というのは、まず、インスリン受容体への結合により内在するチロシンキナーゼが活性化され、自己リン酸化されます。
そのリン酸化チロシンにインスリンレセプター基質1(IRS 1)が結合し、このIRS1がリン酸化されると、リン酸化されたIRS1はホスファチジルイノシトール(PI)-3-キナーゼ(PI-3kinase)に結合し活性化をおこします。
活性化されたPI-3キナーゼはさらにプロテインキナーゼB(PKB)を細胞膜に引き寄せを活性化し、活性化されたPKBはGLUT4を細胞膜に移動させグルコースを細胞内に取り込む、という段取りになっています。


ここで重要なのは、GLUT4というグルコース・トランスポーターです。


GLUT4(グルコース・トランスポーター4)とは?

グルコース・トランスポーター(糖輸送体)と呼ぶぐらいですから、これが血中の糖を細胞内に取り込んでくれる大元で、これがなければお話になりません。


GLUT4があるということは、GLUT1~GLUT3もあるのか?と言うと、あります。


GLUT4というのは、主に骨格筋、心筋、脂肪組織に存在し、インスリンにより反応します。


GLUT1は、主に赤血球に存在し、インスリンにも反応しますが、インスリンの有無に関わらず細胞膜上に存在し、糖を取り込みます。


GLUT2は、腎の尿細管上皮細胞および小腸の上皮細胞、肝細胞と膵β細胞に存在します。


GLUT3は、主に神経細胞に存在します。


1~4までの内、インスリンにより糖を取り込むのは、GLUT4だけです。
骨格筋というのは、糖を取り込む臓器の中では最大のものですから、普段から好き勝手に糖を取り込まれると、すぐに低血糖になってしまい具合が悪いのです。


逆に神経細胞は、インスリンの有無に関わらず糖を取り込みますから、高血糖状態が続くと過剰に糖を取り込んでしまい、神経障害が起こったりします。


すい臓のβ細胞に存在するGLUT2も、これが糖を取り込んでインスリンを分泌するというシステムになっていますから、当然のことながら、インスリンの作用に依存しません。


ちなみに、すい臓のβ細胞環境下が過剰な遊離脂肪酸に晒されると、このGLUT2は細胞膜に安定して留まれなくなってしまい、β細胞は血糖に応じて細胞に糖を取り込めなくなり、インスリン分泌応答は低下します。


β細胞環境に遊離脂肪酸濃度が上昇すると、転写因子FOXA2およびHNF-1αが核外に輸送されるため、Mgat4a遺伝子及びGlut2遺伝子の発現が障害されます。
Mgat4a遺伝子の発現が障害されると、この遺伝子は糖転移酵素N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ4a(GnT-IVa)をコードするので、この糖転移酵素が欠損します。
β細胞のグルコーストランスポーター(GLUT2)は、インスリンの作用に依存せず、糖転移酵素GnT-IVaにより糖鎖修飾を受け、細胞の表面に運ばれるので、この糖転移酵素が欠損すると、GLUT2は細胞の表面に安定してとどまれなくなります。


【参考記事:】

Pathway to diabetes through attenuation of pancreatic beta cell glycosylation and glucose transport.



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