インスリン抵抗性とは何か?

2023年5月29日

インスリンの機能的低下というのは、以前の記事で簡単に説明していますが、インスリンの分泌不足、あるいはインスリン抵抗性がある状態ということです。


糖尿病というのは、この二つが相互に絡み合いながら憎悪して行きます。
重要なことは、糖尿病というのは進行性の病気であることです。
つまり、罹病期間が長ければ長いほど確実に悪化して行きます。


病院で糖尿病と診断されたら、この事実をまずは厳粛に受け止め、頭に叩き込むことです。
これを知っていれば、病院やネット記事で言われる「血糖コントロールを上手くすれば、健常者と変わらない生活ができます!」等と言う説明が、慰めにもならないことが理解できます。
そんなことができたところで、合併症の併発が先延ばしにできるだけです。


インスリン抵抗性とは?

インスリン抵抗性というのは、簡単に言えば、インスリンが分泌されても体内でその働きが鈍くなる、あるいはなかなか働かなくなることです。


我々の身体では、インスリンがレセプター(インスリン受容体)に結合することにより、シグナル伝達が開始され、その下流のシグナリングにおいて様々な働きをしています。
解り易く言うと、インスリンがレセプターに結合することにより、大元の電源がONになり電流が流れ、次々にその下流の回路が起動し出す、というイメージです。


この仕組みは、骨格筋のみならず、身体中の様々な臓器で様々な働きが行われています。
インスリンが糖を取り込むだけと思ったら大間違いで、インスリンとは何か? で説明した通り、大まかに言っても、


  1. 骨格筋におけるグルコース、アミノ酸の取り込み促進
  2. タンパク質合成の促進
  3. 肝臓における糖新生の抑制、グリコーゲンの合成促進・分解抑制
  4. 脂肪組織における糖の取り込みと利用促進
  5. 脂肪の合成促進・分解抑制

が、あり、細かく言えば説明しきれませんし、まだ解っていないこともたくさんあります。



例えば、インスリンは血管内皮細胞のインスリン受容体基質(IRS2)に結合し、eNOS(一酸化窒素合成酵素)を活性化します。

eNOSが活性化されるとNO(一酸化窒素)が産生され、NOが産生されることにより、グアニレートシクラーゼが活性化され、それによりcGMP(サイクリック・グアノシン一リン酸)が上昇し、更に細胞内から細胞外にCa2+が流出し、その結果、血管平滑筋が弛緩し、血管が拡張します。


食後にインスリンが分泌され血管が拡張されることにより、身体の隅々までインスリンが行き渡り糖が吸収されることになります。


ところが、糖尿病患者や肥満者の場合は、血管内皮細胞でのIRS2の発現が低下していたり、インスリン分泌の低下等により、IRS2以下のシグナル伝達が減弱し、eNOSが十分に活性化されず、結果として毛細血管が上手く拡張されず、骨格筋へのインスリン移行が低下し、ますますインスリン抵抗性が高まる、という悪循環になります。


【参考記事:】

Impaired Insulin Signaling in Endothelial Cells Reduces Insulin-Induced Glucose Uptake by Skeletal Muscle.


インスリン抵抗性の原因

インスリン抵抗性の主な原因は肥満(脂肪の過多)です。


肥満になると過剰な脂肪の蓄積により、脂肪細胞が肥大化し、脂肪細胞から遊離脂肪酸の放出が増えます。
遊離脂肪酸が大量に骨格筋に運ばれると、インスリン受容体基質であるIRS1タンパクのセリン残基をリン酸化し、正常なリン酸化過程が阻害され、IRS1以降のシグナルが伝達されなくなります。
そうすると、インスリン依存のGLUT4のトランスロケーションができなくなり、結果的に骨格筋に糖が取り込まれにくくなります。


更に、脂肪細胞が肥大化すると、脂肪細胞から炎症性サイトカインであるTNF-αが産生されます。
このTNF-αも、また、インスリン受容体基質であるIRS1の正常なリン酸化過程を障害し、インスリン抵抗性状態を引き起こします。


一方で、視床下部がこの過剰な遊離脂肪酸に晒されると、視床下部にミクログリアが集積しTNFαやIL6等の炎症性サイトカインが上昇し、視床下部に炎症をもたらします。
そうすると、この視床下部における炎症で神経細胞にストレスがかかり、食欲中枢の興奮を抑えるレプチンに対する感受性が低下します。


このレプチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンで、食べ過ぎると分泌が増え、脳の視床下部にある「レプチン受容体」に働き食欲を抑えたり、エネルギー消費を増やし、糖代謝に影響を与えます。
ところが、遊離脂肪酸(飽和脂肪酸)の過剰曝露により、このレプチンに対する感受性が低下すると、レプチンが放出されても機能しなくなってしまいます。


【参考記事】

Microglia Dictate the Impact of Saturated Fat Consumption on Hypothalamic Inflammation and Neuronal Function


高脂肪食は肥満とは無関係にインスリン抵抗性を高める

これまでの説明から、肥満(脂肪の過多)がインスリン抵抗性を高めることは、ご理解頂けたかと思います。
それ故に、病院では「痩せろ(脂肪を減らせ)」と言われます。


では、高脂肪食自体は、肥満とは独立してインスリン抵抗性を高めるのでしょうか?


つまり、肥満ではない人、あるいは痩せている人が高脂肪食を摂ってもインスリン抵抗性は高まるのでしょうか?


答えは「YES」なのです。


【参考記事:】

Dietary fat and insulin action in humans


上記は、British Journal of Nutrition に掲載された研究です。
論文では、


食事中の脂肪の割合が高いと、肥満および体脂肪の有無とは無関係に、インスリン感受性の障害および糖尿病発症のリスクが増加し、このリスクは食事中の脂肪酸の種類によって影響を受ける。
(飽和脂肪酸の過剰摂取)

と述べられています。
(同様の記事は、欧州糖尿病学会の学会誌・Diabetologia にも掲載されています。)


また、The New York Academy of Sciences に掲載された論文においても、


食物脂肪の質がインスリン抵抗性および関連する代謝異常のいくつかに影響を及ぼすことは、ヒトに対し、これまでの妥当な証拠がある。

Type of Dietary Fat and Insulin Resistance


と、述べられています。


「食物脂肪の質」というのは、飽和脂肪酸が多い(不飽和脂肪酸が少ない)ということです。


これらのエビデンスや論文の数々は、WHOを始め米国糖尿病学会や各国の糖尿病学会において、

糖尿病の有る無しに関わらず、飽和脂肪酸摂取量は1日の総カロリー摂取の10%未満(20g未満)

という勧告や、

脂肪の摂取は飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換える

という勧告の裏付けとなっています。

1日の飽和脂肪酸摂取量は総カロリー摂取の10%未満(20g未満)というのは、WHOや米国連邦政府の食事ガイドラインでは、一般成人に対しても同じ様に推奨しており、米国糖尿病学会においても糖尿病のあるなしに関わらず推奨しています。


病院で痩せろと言われる意味

インスリン抵抗性が生じる主な原因は肥満や内臓脂肪による脂肪過多、とりわけ身体が恒常的に過剰な遊離脂肪酸に晒される時に起こります。


「身体が恒常的に過剰な遊離脂肪酸に晒される」というのは、肥満者に多いというだけで、痩せている人がそうならない保証はどこにもありません。
例えば、痩せていても内臓脂肪が多かったりすれば体内の遊離脂肪酸濃度は上昇しますし、高脂肪食も同じく上昇します。


ここで重要なことは、高血糖というのは、インスリン抵抗性(あるいは糖尿病と言っても良い)の結果ですが、血中で脂肪酸が過剰に上昇するということは、インスリン抵抗性の原因であるということです。


そして一旦糖尿病を発症すると、インスリン抵抗性により血中の脂肪酸は益々上昇し、更にインスリン抵抗性は悪化するという悪循環になります。


かくして、皆さんは病院では「痩せろ!」と言われ、カロリー制限と運動を勧められることになります。
もちろん、「痩せろ!」というのは「脂肪を減らせ」という意味です。



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